予備校地理講師兼進学塾講師・山岡信幸のブログです。
昨日の記事「時差あれこれ(1)」 の続きです)

日本の標準時は1つですが、
面積が(東西に)広い国では、複数の標準時を設定しないと不便で仕方ありません。
国土を、標準時を共にするいくつかの「等時帯(タイムゾーン)」に分割している例をみておきましょう。

面積が日本の45倍(1700万平方キロ)で世界最大のロシアには
11もの等時帯があります(標準時はGMT+2〜+12)。
ロシアでは、国土の一体感を高めようと2010年に標準時を9つに減らしたのですが、
国民からの不評にプーチンも勝てず、2014年に以前の11に戻しています。
国土が広すぎるゆえの苦労ですね。

等時帯2010 のコピー
▲2010年の等時帯(「新詳高等地図」(帝国書院,2011)
ロシアの等時帯は+2〜+11(+4を除く)。
+2はポーランド右上のロシア飛び地カリーニングラード)。

等時帯2014 のコピー
▲2014年の等時帯(「新詳高等地図」(帝国書院,2015)
ロシアの等時帯は+3〜+12。
カリーニングラードがベラルーシと同じ+3になっている(ちょっと見づらい)。

日本の26倍の面積をもつアメリカ合衆国には
等時帯が6つ(本土に4つと、アラスカ・ハワイに1つずつ)あります。
「東部標準時」「太平洋標準時」など、耳にしたことがあるかもしれません。
GMT-10(ハワイ)から−5(東部)ですね。
アメリカ合衆国と面積がほぼ同じのカナダも、等時帯は6つです。

他に複数の等時帯をもつ国としては、
ブラジル・メキシコの4、
オーストラリア・インドネシア・キリバスの3、
カザフスタン・コンゴ民主・ミクロネシアの2
などがあります。
キリバスやミクロネシアの場合は、国土面積が広いわけではなく、
島が広範囲に散らばっているわけです。

キリバスといえば、日付変更線に関する話題が有名です。
先日の記事では「日付変更線≒180度の経線」のように書きましたが、
実際の日付変更線はカクカクと折れ曲がっています。
ベーリング海峡を挟む米ロや、太平洋上の島国などの領域を通過させないためです。
等時帯2014 のコピー


地図上で特に目立つのが赤道付近キリバスの領域で大きく東に迂回する部分。
キリバスの標準時
キリバスの大部分は西半球(「西経」のエリア)に位置するのに、
標準時は本初子午線から東回りのGMT+12〜+14に設定されています。
1979年の独立時には領域内に日付変更線が通過していましたが、
1国の中で日付が変わるのはあまりに不便です。
2000年のミレニアムブームを前にとして観光客の増加をねらい、
1995年、「日付変更線を変更」したのです。
同国東端のライン諸島の標準時GMT+14は、「最も早く日付の変わる島々」を意味しています。
ライン諸島のキリキマティ(クリスマス)島といえば、かつての英米の核実験場としても知られます。
ライン諸島でも最も東のカロリン島(ミクロネシアのカロリン諸島とは無関係)になると、
ミレニアム観光客の多さに舞い上がって、島名を「ミレニアム島」にしちゃいました。

2011年にはサモアも日付変更線を動かして、GMT-11から+13に変えました。
「夏時間(サマータイム)」では+14なのでキリバス東部と同じく「世界の時刻の最先端」です)。
目的はキリバスと違い、経済的つながりの深いニュージーランド(GMT+12:45)に近い標準時を選んだようです。
サモアはこの変更の120年前にも日付変更線を動かしましたが、
動かす向きは今回とは逆でした。
米・英・独の共同保護領だった当時は、米国との貿易の都合で変えられたようです。
サモアの標準時については、
2012年の記事でも書きました → 「スカイツリーとサモア」http://geoyamaoka.blog86.fc2.com/blog-entry-251.html

閑話休題。等時帯の話に戻しましょう。
日本の25倍の面積を持つ中国の等時帯は、
なんと! 1つです。
あの東西に広い国土全体を、
首都北京に近い東経120度線で決まるGMT+8の標準時だけで回しています。
当然、西部の東経75〜90度付近の住民には不満が多いはす。
「朝の8時に登校だ」といっても、実質4〜5時だから外は真っ暗。
文句の一つも言いたくなるはず。

そこで気になるのが、西部の住民とは誰かということ。
この地域には、
新疆維吾爾(シンチアンウイグル)自治区 … イスラム教徒のウイグル民族
西蔵(チベット)自治区 … チベット仏教徒のチベット民族
や、もう少し真ん中寄りに
寧夏回族(ニンシアホイ族)自治区 … イスラム教徒のホイ民族 (回教=イスラム教)
内蒙古(内モンゴル)自治区 … チベット仏教徒のモンゴル民族
などが置かれています。
中国の省級行政区分図 のコピー

いわゆる少数民族です。
東部に暮らす多数派の漢民族と、西部の少数民族。
「文句は言いたいけど、漢民族の支配下では言いにくい」
「不満を募らせて、漢民族の支配への怒りが増幅する」
といった背景が見えてきます。
漢民族の側から言えば、
「時間」を中央集権的に支配することで各民族の独自性を抑え、
「一つの中国」を徹底することで、この広大な国土を統治したいわけですね。

さすがに最西部に住むウイグル民族たちは、
公的な時間とは別に、生活の中では「ウイグル時間」を使っているそうです。

標準時が政治と結びついた極端な例が、
朝鮮民主主義人民共和国です(名は体を表さず)。
最近は、うちのちびっ子たちの口にも「北朝鮮」の名が膾炙していますが、
この国の標準時は最近まで日本や韓国とおなじGMT+9でしたが、
日本による植民地支配からの独立70周年にあたる2015年、
「日本帝国主義の残滓を取り除く」ために
韓国併合以前の標準時だったGMT+8:30に変更したのです。

地球の自転という厳然とした科学的現象に基づいているように見える「標準時」も、
実際には政治や経済に翻弄されまくっています。


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